偽膜性腸炎
偽膜性腸炎
抗生物質のあとの下痢に注意
「抗生物質を飲んでから、お腹の調子が悪い…」
もしそのような症状が続いているなら、それは単なる副作用ではなく「偽膜性腸炎」かもしれません。
原因となる菌を特定し、適切な治療を行えば治る病気です。消化器専門医が詳しく解説します。
- 薬のあとの下痢
- 菌の検査
- 専門的な治療
- 再発予防
💡 偽膜性腸炎とは?
偽膜性腸炎(ぎまくせいちょうえん)は、抗生物質(抗菌薬)の使用などによって腸内細菌のバランスが崩れ、クロストリディオイデス・ディフィシルという細菌が異常に増え、この菌が出す「毒素(トキシン)」が腸を傷つけ、下痢や腹痛を引き起こす腸炎です。
特に高齢の方(65歳以上)、入院中や施設入所中の方、免疫力が低下している方、過去にかかったことがある方は発症のリスクが高いため抗生剤内服する際は注意が必要です。
⚠️ 注意が必要な薬剤
- クリンダマイシン(ダラシンなど)
- セフェム系(セフカペンなど)
- ニューキノロン系(クラビットなど)
- ペニシリン系
- 胃薬(PPI)
- 抗がん剤
⚠️ 典型的な症状
抗生物質を使い始めてから数日〜数週間後に、以下のような症状が現れます。
※服用終了から1〜2ヶ月経ってから発症することもあります。
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水様性下痢
1日に3回以上、多いときは10回以上の水っぽい下痢が続きます。
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腹痛
お腹全体や下腹部に、ギュルギュルとした痛みやけいれん性の痛みを感じます。
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発熱
38℃以上の熱が出ることがあり、風邪と間違われることもあります。
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吐き気・膨満感
お腹が張って苦しい、食欲がない、吐き気がするといった症状もみられます。
🚨 重症化のサイン
以下のような症状がある場合、命に関わる危険性があります。すぐに医療機関を受診してください。
- 激しい腹痛とお腹の張り
- 便が止まったのに腹痛が強くなる
- 38.5℃以上の高熱
- 血圧低下、ショック状態
- 血液検査での著しい白血球増加
🏥 診療の流れ
👨⚕️ 問診・診察
「最近、抗生物質を飲みませんでしたか?」という質問が最も重要です。2〜3ヶ月前まで遡って確認します。
🧪 便検査・血液検査
便の中に「ディフィシル菌」や「毒素」がいるかを調べます。同時に血液検査で炎症の程度や脱水の有無を確認します。
📷 画像検査
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CT
重症度や合併症(腸のむくみ、巨大結腸など)を確認するために行います。
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大腸カメラ
カメラで腸の中を直接観察し、偽膜性腸炎に特徴的な「偽膜(黄白色の膜状の付着物)」の有無を確認します。
💊 治療開始
原因となっている抗生物質の使用を中止し、偽膜性腸炎の特効薬(フィダキソマイシン、バンコマイシン、フラジールなど)を内服します。
※毒素を体外に出す必要があるため、原則として下痢止めは使用しません。
🔍 検査と診断
偽膜性腸炎が疑われる場合、以下の検査を組み合わせて診断を行います。
🩸 血液検査
全身の状態(炎症の強さや脱水の有無)を確認します。特に白血球の数が15,000/µLを超えると重症のサインであり、早急な治療が必要です。
🧪 便の検査(最も重要)
便の中に「菌がいるか(抗原)」と「毒素が出ているか(トキシン)」を同時に調べます。両方が陽性であれば確定診断となりますが、この検査は実際に病気の方でも4人に1人は「陰性」と出てしまうことがあるため、検査が陰性でも症状が強い場合は医師の判断で治療を開始することがあります。
📷 画像検査
CT検査
お腹の断面図を撮影する検査です。腸の壁が厚くなって炎症所見がないか、腸が異常に膨らんでいないか(巨大結腸)など、重症度や命に関わる合併症がないかを確認します。
大腸カメラ
診断が不確実な場合や、他の大腸の病気(潰瘍性大腸炎や虚血性腸炎など)と区別がつかない場合に行うことがあります。腸の粘膜に「偽膜(黄色い膜)」があるかどうかが診断の決め手になりますが、重症の場合は腸に負担をかけるため慎重に判断します。
💊 治療と予防
🏥 治療の基本
まずは原因となった抗生物質をやめることが最も大切です。軽症ならこれだけで治ることもあります。
下痢がひどい場合は、脱水を防ぐために水分をしっかりとります。
※自己判断で「下痢止め」を使うのは危険です。毒素が腸の中に溜まってしまい、症状が悪化する恐れがあります。
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💊 薬物療法
重症度や、「初めてかかったか」「再発か」によって薬を使い分けます。
🟢 初発・軽症
重症でなければ、飲み薬で治療します。
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メトロニダゾール(フラジール)
日本では軽症の方向けの第一選択薬としてよく使われます。安価で効果もしっかりしています。
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フィダキソマイシン(ダフクリア)
新しいお薬です。再発率が低いのが特徴です。
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バンコマイシン(粉薬)
以前から使われている標準的なお薬です。
🟡 再発時の治療
この病気は、一度治っても2〜3割の方で再発してしまうことがあります。
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薬の変更・減量療法
前回と違うお薬を使ったり、お薬を徐々に減らしていくなどの工夫をして治療します。
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再発予防の点滴(ベズロトクスマブ)
何度も繰り返す場合に検討する、再発を防ぐための点滴治療です。
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便移植(FMT)
健康な人の便を移植し、腸内環境を立て直す治療法です。
🔴 重篤な場合
すぐに入院して、集中治療が必要です。
激しい腹痛やお腹の張り、ショック状態(血圧低下)がある場合は、一刻を争います。
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強力な薬物療法
複数の抗生物質を、飲み薬と点滴で同時に使い、菌を徹底的に叩きます。
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緊急手術(救命)
薬が効かない場合や、腸に穴が開いてしまった場合は、命を救うために大腸を切除する手術を行います。
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🧼 感染対策
⚠️ アルコール消毒は効きません。「洗い流す」ことが最も重要です。
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手洗い
石鹸と流水で30秒以上しっかり洗い流してください。アルコール消毒は無効です。
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トイレ掃除
塩素系漂白剤配合の製品(ドメストなど)で拭いてください。一般的なトイレ用洗剤やアルコールは無効です。
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汚れた衣類
他のものと分け、塩素系漂白剤につけ置きしてから洗ってください。
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タオル
共有しないでください。使い捨てのペーパータオルがおすすめです。
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🛡️ 予防
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不必要な抗生物質を飲まない
風邪などで安易に抗生物質を服用しないことが最大の予防です。
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胃酸を抑える薬(PPI)に注意
胃薬もリスクになるため、漫然と飲み続けないようにしましょう。
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整腸剤の予防効果
予防効果は科学的に証明されていません(気休め程度です)。
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再発予防(一度かかった方へ)
別の病気で抗生物質を飲む際、予防的に「バンコマイシン」を内服する方法があります。必ず医師に相談してください。
🩺 早めにご相談ください
「抗生物質を飲んでから、お腹の調子がなかなか戻らない」「下痢が止まらないけれど、ただの副作用だろうか?」——もしそのような症状でお悩みでしたら、迷わず当院にご相談ください。
偽膜性腸炎は、早期に発見して適切な治療を行えば、しっかりと治すことができる病気です。しかし、「そのうち治るだろう」と我慢したり、自己判断で市販の下痢止めを使ってしまうと、かえって症状が悪化してしまうこともあります。
当院では、消化器専門医が丁寧にお話を伺い、必要な検査(迅速キットなど)を用いて的確に診断・治療いたします。「ただの下痢だから」と軽く考えず、少しでも不安があればお気軽にご受診ください。
❓ よくあるご質問
軽症であれば通院で治療できることが多いです。飲み薬を処方し、外来で経過を見ていきます。
ただし、高熱が続く・脱水がひどい・白血球が著しく高いなど重症のサインがある場合は、入院して点滴治療を行います。当院には入院設備がございます。
下痢が治まり、普段通りの食事が摂れるようになれば復帰できます。
ただし、芽胞(がほう)という非常に強い菌が便に含まれるため、トイレ後の石鹸手洗いを徹底してください。調理従事者や医療・介護職の方は、職場の方針もご確認ください。
下痢がひどい間は水分補給(経口補水液など)を最優先してください。無理に食べる必要はありません。
症状が落ち着いてきたら、おかゆ・うどんなど消化の良いものから少しずつ再開しましょう。脂っこいものや刺激物は避けてください。
自己判断での服用は危険です。下痢止めで腸の動きを止めてしまうと、毒素が腸の中に溜まり、かえって症状が悪化・重症化する恐れがあります。必ず医師の指示に従ってください。
健康な方が日常生活でうつることはまれです。ただし、菌の芽胞はアルコール消毒では死滅しないため、以下の点にご注意ください。
残念ながら、2〜3割の方で再発します。一度再発すると、さらに繰り返しやすくなることが知られています。
再発を防ぐためには、不必要な抗生物質を避けることが最も大切です。再発を繰り返す場合は、点滴(ベズロトクスマブ)や便移植といった治療法もあります。
整腸剤の予防効果・治療効果は、現時点では科学的に十分には証明されていません(気休め程度とお考えください)。ただし、害になることは少ないため、医師と相談のうえで服用する分には問題ありません。
下痢が治まることが治癒の目安です。便の検査を繰り返して「陰性」を確認する必要は基本的にありません。
なぜなら、症状が治まった後も便の検査が陽性に出続けることがあり(菌はいるが毒素を出していない状態)、この場合は治療不要だからです。
必ずしもそうとは限りません。検査の結果は以下の3パターンで解釈します。
CDI確定。すぐに治療を開始します。
グレーゾーン。菌はいるが毒素が検出されない状態。症状が強ければ治療を開始します。
CDIの可能性は低い。ただし4人に1人は偽陰性のため、症状が続く場合は再検査や治療を検討します。
すべての方に必要というわけではありません。便の検査で診断がつけば、CTや大腸カメラは不要なことも多いです。
CT検査は重症度の判定や合併症の確認に有用です。大腸カメラは、診断が不確実な場合や他の病気との鑑別が必要な場合に検討します。
参考文献
- JAID/JSC感染症治療ガイドライン2023.
- Johnson S et al. Clin Infect Dis. 2021;73:e1029.
- Kelly CR et al. Am J Gastroenterol. 2021;116:1124.
- Louie TJ et al. N Engl J Med. 2011;364:422.
- Cornely OA et al. Lancet Infect Dis. 2012;12:281.
- Ianiro G et al. Aliment Pharmacol Ther. 2018;48:152.
✍️ この記事を書いた人
古畑 司(ふるはた つかさ)
保有資格