専門医が解説!意図しない体重減少について
はじめに:意図しない体重減少とは
ダイエットなどご自身の意図とは関係なく体重が減ることを「意図しない体重減少」と呼びます。半年から1年の間に普段の体重の5%以上が自然に減少した場合、医学的に重要な体重減少と考えられ、背景に深刻な病気が隠れていることがあります。
ここでは、体重減少について、その原因、診断方法、そしてその後の経過について解説します。
体重減少は体にどのような影響をきたすの?
多くの研究で、意図しない体重減少が死亡率の増加と関連することが示しており、ダイエットなしで5年間に5kg体重が減った場合、その後の死亡率が18%増加したというデータもあります。さらに、骨折のリスクが高まるなど、命に関わる問題以外にも様々な健康上の不利益をもたらすことが知られています。そのため、注意深く原因を調べることが重要です。
主な原因は?
意図しない体重減少は多くの原因で起こり、深刻な病気のサインであることも少なくありません。こうした体重減少の中でも、特に注意が必要なのが筋肉量が減ってしまう状態です。これには、主に「悪液質(カヘキシア)」と「サルコペニア」という二つの状態があり、高齢の方では両方が同時に見られることも珍しくありません。
MEMO:悪液質(カヘキシア)とサルコペニアについて
*悪液質(カヘキシア):病気が原因の消耗状態
がんや心不全、腎臓病といった重い病気が引き起こす、体の深刻な消耗状態を指します。単なる栄養不足とは異なり、病気自体が体内で炎症を起こし、筋肉や脂肪を強制的に分解してしまいます。その結果、食欲が極端になくなり、たとえ食べても体重が減り続けてしまうのが特徴です。
*サルコペニア:加齢に伴う筋肉の衰え
主に加齢によって起こる筋肉の衰えです。年を重ねるにつれて筋肉の量や力が低下し、身体機能が落ちていく状態で、老化現象の一つとされています。活動量の低下や栄養不足が重なると、さらに進行しやすくなります。
がん(悪性腫瘍)
意図しない体重減少の15〜37%が食道がん、胃がん、大腸癌などの悪性腫瘍が原因であるされます。診断時に全てのがん患者の15〜40%に食欲不振と体重減少が見られ、上部消化器がんでは80%と高頻度です。
消化器系の病気
体重減少の原因の10〜20%を占めます。消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病のような吸収不良を引き起こす疾患などがあり、腹痛、下痢や嘔吐など関連する消化器症状を伴うことが多いです。
精神的な病気
こころの問題も体重減少の一般的な原因です。特にうつ病や摂食障害、その他の精神疾患が食欲不振などを引き起こし、体重が減ることがあります。
ホルモン系の病気(内分泌疾患)
ホルモン系の病気も体重減少の原因です。甲状腺の機能が活発になりすぎる病気や、コントロール不良の糖尿病、副腎の病気などでは、体の代謝が変化し、体重が減ることがあります。
感染症
結核、HIV、C型肝炎、寄生虫といった慢性的な感染症も体重減少の原因となります。体が病原体と戦うことでエネルギーを消耗したり、食欲がなくなったりして、体重が減ることがあります。
心不全
重い心不全では食欲不振や腸の不調で栄養不足になり、筋肉が減少します。体がむくみやすいため、体重計の数字では筋肉の減少が分かりにくいことがあり、注意が必要です。
肺の病気(COPDなど)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)など、重い肺の病気では、呼吸するだけで多くのエネルギーを消耗します。きちんと食事をしても消費エネルギーが上回り、体重が減ってしまうことがあり、特に病状の悪化時に起こりやすいです。
腎臓の病気
腎臓の働きがかなり悪くなると、食欲不振などが現れます。心不全と同じく、体がむくむことで筋肉の減少が分かりにくくなることがあります。これらの病気による体重減少は健康を悪化させます。
神経系の病気
脳卒中、認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などのいくつかの神経疾患は体重減少につながる可能性があります。
服用中の薬や嗜好品
- 特定の処方薬の副作用:抗痙攣薬(例:トピラマート)、糖尿病治療薬(例:メトホルミン)、甲状腺薬、認知症治療薬(コリンエステラーゼ阻害薬)などが知られています。
- 市販薬、ハーブ製品:5-HTP、アロエ、カフェイン、ガラナ、セントジョーンズワートなど。
- アルコール:アルコール依存症患者の多くはアルコールからカロリーを摂取するため、体重減少に加えて栄養欠乏に陥ります。
リウマチ性の病気
関節リウマチや巨細胞性動脈炎などのリウマチ性疾患の患者は、全身症状の一部として体重減少を伴うことがあります。
その他の原因
- 食事摂取に影響する社会的要因:特に高齢者では、食料の入手が困難な場合など、社会的な要因による不十分な食事摂取が体重減少につながることがあります。
- 過度な運動を行うアスリート:長距離走者、モデル、バレエダンサー、体操選手など、非常に痩せていることを要求される職業の人々は、体重と筋肉量を維持するために、かなりのカロリー摂取量を増やす必要があります。しかし、食事摂取量を増やしたとしても、常に十分な量のカロリーを摂取し、体重を維持できるとは限りません。これは、高い運動量によるエネルギー消費が非常に大きいため、通常の食事だけではその消費量を補いきれない場合があるためです。
どのように診断されるのか?
原因を特定するため、まず「いつから、どのくらい体重が減ったか」を確認します。次に他の症状、服用中の薬、生活習慣などをお伺いします。その後、診察して隠れた病気のサインがないか調べます。これらの情報で原因がはっきりしない場合は、血液検査、内視鏡検査、CT検査、尿検査、レントゲン検査などを追加し、総合的に診断を進めます。
血液検査、尿検査
血球算定、血糖値、腎機能、肝機能、尿検査、甲状腺刺激ホルモン(TSH)や炎症マーカー(赤血球沈降速度、CRP)をしらべます。
CTスキャン
結核や悪性腫瘍のスクリーニングとして行われることがあります。悪性腫瘍が疑われる場合は胸部、腹部、骨盤のCTスキャンが有用な場合があります。

内視鏡
腹痛や便通異常といった消化器の症状や原因不明の体重減少がある場合、便の検査で異常が見つかった場合には、内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)で胃や腸の内部を直接観察することが有用です。これにより、潰瘍やがんなどを発見できます。患者様の負担を減らすため、鎮静剤を使って楽に検査を受けることも可能です。

フォローアップについて
一度の検査で原因がはっきりと特定できないこともあります。その場合は、1ヶ月から半年ほど新しい症状が出ていないかなどを定期的に確認します。特に、体重減少が止まらず進行している場合は、より短い間隔で再評価を行う必要があります。
体重減少は重大な病気のサインである可能性も否定できないため、我慢せず、症状が続く場合はお気軽に専門の医師にご相談ください。一緒に原因を探り、最適な解決策を見つけていきましょう。
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