専門医が解説:潰瘍性大腸炎について
潰瘍性大腸炎とはどんな病気ですか?
どんな病気?
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、ただれや潰瘍(かいよう)ができる慢性の病気で炎症性腸疾患の一つです。炎症が起きている範囲によって、主に3つのタイプに分けられます。治療方針を決める上での目安になります。
- 直腸炎型:炎症が直腸(肛門から15-18cm程度)に限定されているタイプ。
- 左側大腸炎型:炎症が直腸から大腸の左側まで及んでいるタイプ。
- 全大腸炎型:炎症が大腸全体に及んでいるタイプ
クローン病との違い
同じく「炎症性腸疾患(IBD)」であるクローン病とは、炎症の起こり方に違いがあります。
- 潰瘍性大腸炎:炎症は大腸に限定され、粘膜の浅い層で、連続して広がります。
- クローン病:口から肛門まで消化管のあらゆる場所に、炎症が深い層まで及ぶ可能性があり、病変が飛び飛びに発生することがあります。
なぜこの病気になるのですか?
原因はまだ完全にはわかっていませんが、遺伝的な要因に、様々な環境要因が加わって、免疫システムが異常を起こすことが関係していると考えられています。
- 遺伝的な要因:ご家族に同じ病気の方がいる場合に発症しやすい傾向はありますが、患者さんのうち、ご家族(親や兄弟姉妹)に同じ病気の方がいるのは10〜25%程度です。
- 環境的な要因:以下のようなものが、発症や症状悪化のきっかけになると考えられています。
- 食生活:脂肪分の多い食事が関係している可能性があります。
- 感染症:サルモネラ菌などによる腸管感染症が、発症の引き金になることがあります。
- 薬剤:一部の痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)などが症状を悪化させることがあります。
- 心理的ストレス:直接の原因ではありませんが、症状を悪化させるきっかけになることがあります。
どんな症状が出ますか?
主な症状は、下痢や血便、腹痛です。これらに加えて、発熱や体重減少、だるさなどが現れることもあります。症状や検査結果を総合的に判断し、病気の勢いがどの程度か(重症度)を判断します。
重症度分類
項目 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
---|---|---|---|
1) 排便回数 | 4回以下/日 | 6回以上/日 | |
2) 血便の程度 | 少量〜なし | 明らかに多い | |
3) 発熱 | なし | 重症と軽症の中間 | 37.5℃以上 |
4) 脈拍数 | なし | 90回/分以上 | |
5) 貧血 (ヘモグロビン値) | 正常 | 10g/dL以下 | |
6) 炎症反応 (赤沈またはCRP) | 正常 | 赤沈30mm/h以上<br>またはCRP 3.0mg/dL以上 |
*
血便の程度の目安
(+)
:排便の半分以下で、便にわずかに血が付着する程度(++)
:ほとんどの便に、はっきりと血液が混じっている(+++)
:便の大部分が血液である
劇症とは? 重症の中でも特に症状が激しく、命に関わることもある非常に危険な状態です。1日に15回以上の血性下痢、38.5℃以上の高熱、強い腹痛などが続き、緊急の入院治療が必要となります。
どのように診断しますか?
症状の原因を特定し、診断を確定するために以下の検査を行います。
- 血液検査・便検査:体の炎症反応の強さ(CRPなど)、貧血の有無、栄養状態(アルブミン値など)を調べます。便検査では、腸の炎症の程度を反映する「カルプロテクチン」という数値を測定することもあります。
- 大腸内視鏡検査(大腸カメラ):診断のために最も重要な検査です。おしりから細いカメラを入れ、大腸の粘膜を直接観察し、炎症の範囲や特徴(赤み、ただれ、出血しやすさなど)を確認します。炎症が治った跡がポリープのように盛り上がって見える「偽ポリープ」が観察されることもあります。
- 生検(組織検査):大腸内視鏡検査の際に、粘膜の組織を少量採取し、顕微鏡で詳しく調べます。これにより、潰瘍性大腸炎に特徴的な炎症であることを確認し、診断を確定させます。
- 画像検査:クローン病との区別が難しい場合や、合併症が疑われる場合には、MRIやCTでお腹の中を詳しく調べることがあります。
どんな治療法がありますか?
治療の目標は、まず炎症を抑えて症状を改善し(寛解導入)、その良い状態をできるだけ長く維持すること(寛解維持)です。
お薬による治療
- 5-ASA(ゴアサ)製剤:軽症から中等症の治療の基本となるお薬です。飲み薬のほか、坐薬や注腸剤などがあり、炎症を直接抑えます。
- ステロイド:中等症から重症の活動期に使う、強力な抗炎症薬です。症状を速やかに改善させますが、副作用のため長期使用はせず、症状が落ち着けば減らしていきます。
- 生物学的製剤:免疫の働きに深く関わる特定の物質(TNF-α、インテグリン、IL-12/23など)をピンポイントで抑えるお薬です。点滴や皮下注射で投与します。
- JAK阻害薬・S1P受容体調節薬:免疫細胞の働きを調整する新しいタイプの飲み薬です。
手術による治療
お薬の治療で効果が不十分な場合や、大量出血、大腸に穴が開く、がん化の危険があるといった重篤な合併症が起きた場合に手術が検討されます。最も一般的な手術では、大腸をすべて摘出し、小腸で便を溜める袋(パウチ)を作って肛門につなぎます。これにより、多くの場合、人工肛門(ストーマ)なしで生活することが可能です。
6. 合併症について
腸の合併症
- 中毒性巨大結腸症:大腸が大きく膨らみ、緊急手術が必要になることがある危険な状態です。
- 穿孔(せんこう):強い炎症により大腸の壁に穴が開くことです。
- 大腸がん:長期間、広範囲に炎症が続くと、大腸がんのリスクが少し高まります。そのため、定期的な大腸内視鏡検査によるチェックが非常に重要です。
腸以外の合併症
関節(関節炎)、皮膚(結節性紅斑など)、眼(ぶどう膜炎)、肝臓(原発性硬化性胆管炎など)に症状が出ることがあります。また、血栓ができやすくなる(血栓塞栓症)ことも知られています。
日常生活で気をつけることはありますか?
- 食事:基本的にはバランスの取れた食事が大切です。症状が悪い時は、脂肪の多いもの、食物繊維の多いもの、香辛料などの刺激物は、お腹の負担になることがあるので避けた方が良いでしょう。
- ストレス:ストレスは症状を悪化させるきっかけになることがあります。自分なりのリラックス方法を見つけ、心と体を休ませましょう。
- 定期的な通院と検査:症状が落ち着いていても、自己判断でお薬をやめないでください。定期的な診察と検査で状態を把握し、再燃を防ぐことが非常に重要です。
最後に
潰瘍性大腸炎は、長く付き合っていく必要のある病気ですが、決して一人で抱え込む必要はありません。治療法は年々進歩しており、多くの患者さんが症状をコントロールしながら、仕事や学業、趣味など、自分らしい生活を送っています。
わからないことや不安なことがあれば、どんな些細なことでも遠慮なく医師や看護師にご相談ください。私たちは、あなたの最も身近なパートナーとして、治療の道のりを共に歩んでいきたいと考えています。