【医師監修】その胸やけ、胃食道逆流症(GERD)かも?症状・原因・最新治療法を徹底解説
はじめに:つらい胸やけ・呑酸(どんさん)、あきらめていませんか?
「食後に胸が焼けるように熱い」「酸っぱいものが喉までこみ上げてくる感じがする」 そんな不快な症状に、日常的に悩まされていませんか?もしそうだとしたら、それは単なる「食べ過ぎ」や「年のせい」ではないかもしれません。
それは「胃食道逆流症(GERD)」かもしれません
このようなつらい症状は、GERD(Gastroesophageal Reflux Disease:胃食道逆流症)という病気のサインである可能性が高いです。GERDは、胃の中身、特に強力な酸である胃酸が食道に逆流することで、食道の粘膜を傷つけたり、不快な症状を引き起こしたりする病気です。 日本では、食生活の欧米化や高齢化などを背景に患者数が増加傾向にあり、今や成人の10人〜20人に1人がGERDの症状を経験していると言われています。
この記事では、GERDの正しい知識を身につけ、適切な対処ができるよう、その原因から最新の治療法までを詳しく解説していきます。
胃食道逆流症(GERD)とは?
GERDを正しく理解するために、まずはその定義と種類について知っておきましょう。
GERDの基本的な仕組み

通常、私たちの食道と胃のつなぎ目(噴門部)は、下部食道括約筋(LES)**という筋肉によって、フタのように固く閉じられています。これにより、胃の中身が食道へ逆流しないようになっています。 しかし、何らかの原因でこの筋肉がゆるむと、胃酸を含んだ胃の内容物が食道へと逆流してしまいます。これがGERDの基本的なメカニズムです。
タイプは2種類|カメラでわかる「逆流性食道炎」と、わからない「非びらん性逆流症(NERD)」
GERDは、内視鏡(胃カメラ)検査で食道粘膜の状態を確認し、主に2つのタイプに分類されます。
- 逆流性食道炎(ERD) 内視鏡で見たときに、食道粘膜にびらん(ただれ)や潰瘍などの炎症がはっきりと確認できるタイプです。これはGERDであることの確実な証拠となります。
- 非びらん性逆流症(NERD:ナード) 胸やけなどの典型的な症状があるにもかかわらず、内視鏡で見ても食道粘膜に傷や炎症が見られないタイプです。実は、日本のGERD患者さんの半数以上がこのNERDであると言われており、症状があるのに「異常なし」と診断されて悩んでいる方も少なくありません。
NERDはさらに、食道内の酸の逆流度合いや、症状との関連性によって「真のNERD」「逆流過敏性食道」「機能性胸やけ」などに細かく分類されます。
こんな症状は要注意!GERDのサイン
GERDが引き起こす症状は多岐にわたります。代表的なものから、意外なものまで確認してみましょう。
典型的な症状:「胸やけ」と「呑酸」
以下の2つは、GERDの最も代表的な症状(定型症状)です。
- 胸やけ:胸の真ん中あたり(胸骨の後ろ)が焼けるように熱く感じる、ヒリヒリする感覚。特に食後や前かがみになった時に感じやすいです。
- 呑酸(どんさん):胃酸が口や喉の奥までこみ上げてくる感覚。酸っぱい、苦い味がすることもあります。
食道だけじゃない?長引く咳や声がれなど、意外な症状
GERDは、食道以外の場所に症状を引き起こすこと(食道外症状)も珍しくありません。
- 長引く咳(慢性咳嗽)
- 声がれ(嗄声)
- 喉の違和感、詰まった感じ(咽喉頭異常感)
- 喘息の悪化
- 胸の痛み(非心臓性胸痛)
- 歯が溶ける(酸蝕症)
これらの症状が他の病気の検査をしても原因不明な場合、背景にGERDが隠れていることがあります。
なぜ逆流は起きるの?GERDのメカニズムと原因
胃から食道への逆流は、なぜ起こってしまうのでしょうか。その主な原因を見ていきましょう。
胃と食道の”フタ”がゆるむ仕組みとは
逆流防止の要である下部食道括約筋(LES)の機能が低下することが、最大の原因です。特に、食事とは関係なくLESが一時的にゆるむ「一過性LES弛緩」が、逆流の主な引き金と考えられています。
肥満や加齢、食道裂孔ヘルニアとの関係
- 肥満・姿勢:肥満(特に内臓脂肪)や、ベルトでお腹を締め付けたり、猫背などの前かがみの姿勢は、胃を圧迫(腹圧の上昇)し、逆流を起こしやすくします。
- 加齢:年齢とともにLESの筋力が低下したり、食道の蠕動運動(逆流してきたものを胃に押し戻す動き)が弱まったりします。
- 食道裂孔ヘルニア:胃の一部が、横隔膜の上にある胸腔内にはみ出してしまう状態です。これにより逆流防止機能が著しく低下し、GERDの大きな原因となります。
ついやってない?GERDを悪化させる生活習慣
日々の何気ない習慣が、症状の引き金になっていることもあります。
- 食事:高脂肪食、食べ過ぎ、アルコール、チョコレート、柑橘類、香辛料、炭酸飲料など
- 食後の行動:食べてすぐに横になる
- 喫煙:タバコはLESをゆるめる作用があります
- ストレス:自律神経の乱れが胃酸分泌や食道の知覚過敏に関与すると考えられています
- 薬剤:一部の血圧の薬(カルシウム拮抗薬など)や喘息の薬がLES圧を低下させることがあります
放置はキケン?GERDが引き起こす合併症
「ただの胸やけ」と軽く考えてGERDを放置すると、様々な合併症を引き起こすリスクがあります。
食道がんのリスクを高める「バレット食道」とは
長期間にわたって胃酸の逆流にさらされ続けると、食道の粘膜が胃の粘膜のような「円柱上皮」に置き換わってしまうことがあります。この状態を「バレット食道」と呼びます。 バレット食道自体は症状を引き起こしませんが、特殊なタイプの食道がんである「食道腺がん」の発生リスクを著しく高めることが知られており、定期的な内視鏡検査が重要になります。
喘息や喉の病気との関連性
逆流した胃酸が気管支を刺激したり、食道の神経を介して喘息発作を誘発したりすることがあります。また、喉頭(のど)に炎症を起こし、慢性的な喉頭炎や声帯ポリープの原因となることもあります。
GERDの診断について
GERDが疑われる場合、医療機関では以下のような流れで診断と治療が進められます。
まずはセルフチェックと問診から
まずは、どのような症状が、いつ、どんな時に起こるのかを医師に詳しく伝えます。症状からGERDが強く疑われる場合、検査の前に治療を開始することもあります。
🚨注意すべき症状(警鐘症状)
以下の症状がある場合は、胃がんや食道がんなどの重い病気の可能性も考えられるため、速やかに内視鏡検査が必要です。
- 🩸 消化管出血(吐血、黒い便)
- 📉 原因不明の体重減少
- 😰 嚥下困難(飲み込みにくい)
- 🩺 貧血
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃カメラで食道粘膜の状態を直接観察し、逆流性食道炎の有無や重症度、バレット食道や食道がんなどの合併症がないかを確認します。
治療の基本となる「生活習慣の見直し」
GERD治療の基本は、薬物療法と生活習慣の改善です。薬の効果を最大限に引き出し、再発を防ぐためにも、以下のポイントを意識してみましょう。
食事の「食べ方」を見直す
- ゆっくりよく噛む:早食いは避けましょう。
- 腹八分目を心がける:満腹まで食べると胃が引き伸ばされ、逆流の引き金となる”フタ”のゆるみを誘発します。
- 食後すぐに横にならない:食後は逆流が最も起こりやすい時間帯です。
- 就寝3時間前までに夕食を済ませる:就寝中に長時間、食道が胃酸にさらされるのを防ぎます。
食事の「内容」に気をつける
症状を引き起こす食べ物は人それぞれですが、一般的に以下のものは避けた方が良いとされています。ご自身の体調と相談しながら、原因となる食品を見つけていきましょう。
- 脂肪の多い食事:揚げ物、天ぷら、脂身の多い肉など
- 嗜好品:アルコール、コーヒー、緑茶、炭酸飲料
- 刺激の強いもの:香辛料(唐辛子など)
- その他:チョコレート、ミント、柑橘系の果物(みかん、レモンなど)
食事以外の生活習慣を改善する
- 減量:肥満、特に内臓脂肪は胃を圧迫し逆流の大きな原因です。減量することで症状が劇的に改善することがあります。
- 禁煙:喫煙は逆流防止の”フタ”をゆるめる作用があります。
- 服装に気をつける:ベルトやコルセット、きつい服装でお腹を締め付けないようにしましょう。
- 就寝時の工夫:夜間の症状が強い方は、枕やクッションで上半身を高くして(約15〜20cm)寝ると効果的です。
- 運動:激しい運動は逆流を誘発することがありますが、ウォーキングなどの適度な運動は推奨されます。
GERD治療薬のキホン|効果と種類
薬物療法では、胃酸の分泌を薬物療法は、胃酸の分泌を強力に抑えることが基本戦略です。ここでは治療の薬物療法は、胃酸の分泌を強力に抑えることが基本戦略です。ここでは治療の主役となる薬剤をご紹介します。
治療の主役「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」
PPI(Proton Pump Inhibitor)は、長年にわたりGERD治療の第一選択薬(ファーストライン)として使用されてきました。胃酸分泌の最終段階をブロックすることで強力に酸の分泌を抑え、逆流性食道炎(ERD)を8割以上治癒させるという高い治療効果を誇ります。症状を和らげるだけでなく、食道の炎症をしっかりと治すための中心的な薬剤です。
より早く強力に効く新世代の薬「P-CAB」
近年、PPIよりもさらに速く、強力に、そして安定して胃酸を抑える新しいタイプの薬としてP-CAB(Potassium-Competitive Acid Blocker:カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)が登場しました。特に、PPIでは治りにくかった重症の逆流性食道炎に対して、より高い治癒効果が報告されており、治療の新たな柱となっています。症状改善効果もPPIより早いとされ、つらい症状からいち早く解放されたい方にとっても力強い選択肢です。
症状を和らげるその他の薬
- H2ブロッカー:PPIやP-CABほど強力ではありませんが、胃酸分泌を抑える薬です。PPIを服用していても夜間の症状が残る場合に、就寝前に追加で服用することがあります。
- 制酸薬・アルギン酸塩:逆流してしまった胃酸を直接中和したり(制酸薬)、胃酸が食道へ上がってくるのを物理的に防いだり(アルギン酸塩)することで、一時的ですが速やかに症状を緩和する効果が期待できます。PPIなどの基本の薬に追加して用いられることがあります。
薬が効きにくい「難治性GERD」でお悩みの方へ
「PPIをきちんと飲んでいるのに、症状が一向に良くならない…」 このように、適切な薬物治療を行っても症状が改善しない場合を「難治性GERD」と呼びます。
なぜ薬が効かないのか?考えられる原因
- 服薬の問題:薬の飲み忘れや、飲むタイミングが不適切。
- 酸逆流のコントロール不足:夜間など、薬の効果が切れる時間帯に酸逆流が起きている。
- 非酸逆流:胃酸以外の消化液(弱酸性やアルカリ性)の逆流が症状の原因となっている。
- 食道の知覚過敏:わずかな刺激にも過敏に反応してしまう状態。
- 他の病気の合併:好酸球性食道炎や食道運動機能障害、機能性ディスペプシアなど。
- 心理的要因:不安やストレスが症状を増幅させている。
難治性GERDへの治療アプローチ
薬が効かない場合は、原因に応じて治療戦略を組み立て直します。
- 酸分泌抑制の強化・変更 まずは基本となる酸の抑制をさらに強化します。PPIの量を増やしたり(倍量投与)、一日2回に分けて服用したり、より強力なP-CABへ変更したりすることが推奨されます。これだけで症状が劇的に改善することも少なくありません。
- 補助的な薬剤の追加 酸の抑制だけでは改善しない場合、他のメカニズムに働きかける薬を追加します。
- 消化管運動機能改善薬
胃の動きを活発にし、食べた物がスムーズに腸へ流れるのを助けることで、逆流そのものを減らします。PPI抵抗性のNERD(非びらん性逆流症)患者さんに対し、アコチアミド(商品名:アコファイド)を追加することで症状の改善効果が報告されています。 - 漢方薬(六君子湯など)
胃の機能を整え、PPIだけでは改善しない症状に有効な場合があります。 - 神経調整薬
逆流の根本的な原因や、食道の知覚過敏にアプローチする薬剤です。- バクロフェン(商品名:ギャバロン、リオレサール)
神経調整薬の一つで、逆流の主な原因である「下部食道括約筋の一過性弛緩」を抑制する作用があります。これにより、食後の酸および非酸の逆流回数を減らすことが示されており、PPI抵抗性の患者さんの一部で症状改善が期待されます。
- バクロフェン(商品名:ギャバロン、リオレサール)
- 消化管運動機能改善薬
※一部の薬剤の組み合わせは保険適用外となる場合がありますので、治療の詳細は主治医にご確認ください。
薬だけじゃない!外科手術・内視鏡治療という選択肢
薬物療法で効果が不十分な場合や、薬を長期間飲み続けることに抵抗がある場合には、外科的・内視鏡的な治療も選択肢となります。
- 腹腔鏡下噴門形成術 ゆるんだ噴門部を、患者さん自身の胃の一部を使って補強し、逆流防止機能を再建する手術です。お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が主流で、体への負担が少なく、根治性が期待できます。
- 内視鏡治療 :ARMS(アームズ:逆流防止粘膜切除術)
近年、特に注目されている治療法です。胃カメラを使い、逆流の原因となっている食道と胃のつなぎ目(噴門部)の緩んだ粘膜をあえて一部だけ切除します。すると、傷が治癒する過程で組織が自然に引き締まり、緩んだ”フタ”を締め直す効果が生まれます。この「自己再生能力」を利用した画期的な方法で、胃酸の逆流を防ぎます。
まとめ:つらい症状は専門医に相談を
GERDは、生活の質(QOL)を著しく低下させるつらい病気ですが、正しく診断し、治療すれば、症状を大幅に改善させることが可能です。 胸やけや呑酸などの症状に悩んでいたら、「いつものこと」と放置せずに、まずは消化器内科の専門医に相談してください。あなたに合った治療法を見つけ、不快な症状のない快適な毎日を取り戻しましょう。
✍️ この記事を書いた人

(ふるはた つかさ)