胃・十二指腸潰瘍のすべて:原因から最新治療までを専門医が徹底解説

「胃がキリキリ痛む」「空腹時にみぞおちがシクシクする」そんな症状にお悩みではありませんか?もしかしたら、それは消化性潰瘍のサインかもしれません。

この記事では、消化性潰瘍とはどのような病気なのか、その原因から症状、最新の治療法までを、専門的な情報を基に分かりやすく解説します。

はじめに:胃・十二指腸潰瘍ってどんな病気?

胃や十二指腸の壁が深く傷ついた状態

消化性潰瘍とは、胃酸などによってまたは十二指腸の粘膜が深くえぐられて傷ついた状態のことです。粘膜の表面が少し荒れているだけの「びらん」とは異なり、粘膜の下の層(粘膜筋板)を越えて深く傷が達したものを「潰瘍」と呼びます。

患者数は減っている?近年の傾向

日本では、衛生環境の改善やピロリ菌の除菌治療の普及により、消化性潰瘍の患者数全体は減少傾向にあります。

しかし、近年は傾向に変化が見られます。

  • ピロリ菌が原因の潰瘍は減少
  • 痛み止め(NSAIDs)が原因の潰瘍は増加
  • ピロリ菌も痛み止めの服用もない**「特発性潰瘍」が増加**

特に高齢化に伴い、痛み止めや血液をサラサラにする薬(低用量アスピリンなど)を服用する方が増えたことが、潰瘍の原因を変化させていると考えられています。

🔬 胃・十二指腸潰瘍の主な原因は?
2大リスクを知ろう

消化性潰瘍には、主に二つの大きな原因があります。最も一般的な原因はヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)の感染と、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用です。

消化性潰瘍の二大原因

ヘリコバクター・ピロリ菌の感染

ピロリ菌は胃の粘膜に生息する細菌で、感染すると胃酸の分泌増加や粘膜の防御機能低下を引き起こし、潰瘍の原因となります。感染者の約10〜15%が潰瘍を発症すると言われていますが、日本ではピロリ菌の感染率は低下傾向にあります。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用

アスピリンなどのNSAIDsは、胃粘膜を保護する物質の生成を妨げるため、潰瘍の大きな原因です。NSAIDsの服用で潰瘍リスクは約4倍に増え、自覚症状がないまま出血などで見つかることも少なくありません。日本ではピロリ菌による潰瘍が減る一方、NSAIDs(特に低用量アスピリン)による潰瘍は増加傾向にあります。

  • 日本で主に使用されるNSAIDsの例
    • ロキソプロフェナトリウム(例:ロキソニン®)
    • イブプロフェン(例:ブルフェン®、イブ®)
    • ジクロフェナクナトリウム(例:ボルタレン®)
    • セレコキシブ(例:セレコックス®)
    • アセチルサリチル酸(例:アスピリン®、バイアスピリン®)

ピロリ菌とNSAIDsの相乗リスク

ピロリ菌感染とNSAIDsの使用は、それぞれが独立した潰瘍のリスク因子ですが、この二つが重なると、潰瘍や関連する出血のリスクがさらに高まることが知られています。

その他のリスク因子と稀な原因

ピロリ菌感染やNSAIDsの使用に当てはまらない潰瘍も存在し、その多くは特発性潰瘍(IPU: Idiopathic Peptic Ulcer)と呼ばれます。IPUは近年増加傾向にあり、治療が難しく再発しやすいことが課題とされています。

その他にも、以下のような要因が潰瘍のリスクとなります。

薬剤

  • ステロイド:NSAIDsと併用すると潰瘍リスクが上昇します。
  • 抗血小板薬・抗凝固薬:クロピドグレルやワルファリンなどは、出血を伴う潰瘍のリスクを高めます。
  • その他:一部の骨粗しょう症治療薬(ビスホスホネート)、抗うつ薬(SSRI)、抗がん剤などがリスクとなることがあります。

生活習慣・体質

  • 喫煙:潰瘍の発生リスクを高め、治癒を遅らせます。
  • アルコール:高濃度のアルコールは胃の粘膜を直接損傷させます。
  • 精神的ストレス:胃酸の分泌を促進し、潰瘍の引き金になることがあります。
  • 重篤な身体的ストレス:大きな手術、重度の火傷(Curling潰瘍)、頭部の外傷(Cushing潰瘍)などが原因で潰瘍が発生することもあります。

特殊な病気

  • 胃酸分泌が過剰になる病気:ガストリンというホルモンを産生する腫瘍(ゾリンジャー・エリソン症候-群)など。
  • 炎症性・浸潤性の病気:クローン病、好酸球性胃腸炎など。
  • 感染症:サイトメガロウイルスなど、ピロリ菌以外の感染症。
  • 虚血:動脈硬化などによる消化管の血流障害。

⚠️ こんな症状に要注意!
胃・十二指腸潰瘍のサイン

最も顕著な症状は「みぞおちの痛み」

消化性潰瘍の最も特徴的な症状は、みぞおち(上腹部)の痛みや不快感です。この痛みは背中に広がったり、良くなったり悪くなったりを繰り返したりすることもあります。

症状が出ない「無症候性潰瘍」も多い

消化性潰瘍の約 70% は無症状とされ、特に痛み止め(NSAIDs)が原因の場合は半数近くで自覚症状がありません。気づかないうちに出血などの合併症に進展することもあるため、リスクのある方は定期的な内視鏡検査が重要です。

胃潰瘍と十二指腸潰瘍で痛みの出方は違う?

一般的に、潰瘍ができた場所によって痛みのタイミングが異なります。

胃潰瘍の痛み

食後に痛む傾向があります。食べ物が潰瘍を直接刺激することが原因です。

十二指腸潰瘍の痛み

空腹時や夜間に痛むことが多く見られます。食事をすると一時的に痛みが和らぐのが特徴です。

胃十二指腸潰瘍の重篤なサイン

どうやって診断するの?
胃・十二指腸潰瘍の検査

確定診断には「内視鏡検査(胃カメラ)」が不可欠

消化性潰瘍の診断を確定するためには、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が最も重要です。口または鼻から細いカメラを挿入し、食道・胃・十二指腸の内部を直接観察します。

検査でわかること

  • 潰瘍の有無、場所、大きさ、深さを正確に確認できます。
  • 潰瘍の見た目から、良性か悪性(がん)かを判断します。胃潰瘍の場合は、がんの可能性を否定するために組織の一部を採取(生検)することがあります。
  • 出血の有無や、出血しやすい状態かどうかを評価します。
  • ピロリ菌感染の有無を調べるための組織を採取することも可能です。

胃・十二指腸潰瘍の治療法

🦠 ピロリ菌陽性の場合:除菌治療

ピロリ菌が陽性の場合は、潰瘍の再発を防ぐために除菌治療が不可欠です。胃酸を抑える薬と 2 種類の抗生物質を 1 週間服用します。除菌に成功すれば、潰瘍の再発率は劇的に低下します。

ピロリ菌の詳細はこちら

💊 痛み止めが原因の場合:お薬の見直しと予防

NSAIDs が原因の場合、可能であれば原因薬剤の中止・変更が原則です。中止が難しい場合は、胃への負担が少ない薬への変更や、胃薬を併用して潰瘍の発生を予防します。

💉 胃酸を抑える薬(PPI、ボノプラザンなど)

現在の潰瘍治療の主役は、胃酸の分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やボノプラザン(P-CAB)です。これらの薬で潰瘍の痛みを速やかに和らげ、治癒を促します。

⚠️ 合併症の治療

消化性潰瘍を放置すると、下記のような重大な合併症を引き起こす可能性があります。

  • 出血:潰瘍から血が出ること。吐血や黒色便の原因となります。内視鏡をつかって止血をおこないます。
  • 穿孔:潰瘍が深くなり、胃や十二指腸の壁に穴が開くこと。激しい腹痛を伴い、緊急手術が必要です。
  • 狭窄:潰瘍の傷跡で食べ物の通り道が狭くなること。吐き気や嘔吐の原因となり、内視鏡による拡張術などが行われます。

まとめ:早期発見・早期治療が大切

消化性潰瘍は、適切な検査と治療を行えば、多くの場合きれいに治癒する病気です。しかし、放置すると重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

みぞおちの痛みや胸やけなど、気になる症状があれば自己判断で済ませず、ぜひ一度、消化器内科を受診してください。特に、痛み止めを日常的に服用している方や、過去にピロリ菌を指摘されたことがある方は注意が必要です。早期発見・早期治療で、健康な毎日を取り戻しましょう。

✍️ この記事を書いた人

古畑 司 - 消化器病専門医・内視鏡専門医
古畑 司
(ふるはた つかさ)
保有資格
消化器病専門医 内視鏡専門医 総合内科専門医 肝臓専門医
消化器病専門医、内視鏡専門医に加え、総合内科専門医、肝臓専門医としての知見も活かし、患者さんの腹痛の原因を専門家として「的確に診断・治療」することに尽力しております。