下痢症の専門的な理解と適切な対応
下痢は、誰にでも起こり得る一般的な症状ですが、その背景には、一過性のウイルス感染から、重篤な腸の病気まで、様々な原因が潜んでいます。このページでは、下痢症の専門的な定義から、特に注意すべき危険な兆候、そして原因に応じた適切な治療法について、詳細に解説します。
下痢症の持続期間による分類
下痢は、「便の性状が通常時よりも軟らかくなる変化が持続し、通常24時間以内に少なくとも3回以上排泄されること」と定義されます。これは、腸における水分吸収の障害や、腸管からの過剰な水分分泌の増加を反映した状態です。
下痢の持続期間を確認することは、原因の特定と治療方針を決める上で極めて重要です。
💊 急性下痢症と慢性下痢症の違い
⚡ 急性下痢症(14日以内)
急性下痢症は、下痢が始まってから 14日以内のものを指します。ほとんどの場合、ウイルスや細菌による感染性の下痢です。
📅 慢性下痢症(4週間以上)
慢性下痢症は、下痢が 4週間以上続く場合を指します。過敏性腸症候群(IBS)や炎症性腸疾患(IBD)などの器質的な疾患の可能性が高まります。
こんな症状は要注意!すぐに医療機関へ
下痢症の主な原因と特徴について
⚡急性下痢症
原因 | 症状の特徴とポイント |
---|---|
ウイルス感染 | 突然の激しい嘔吐や下痢。症状は強いが、短期間で回復に向かう。2〜3 日程度で改善することが多い。ヒト-ヒト感染や汚染された飲食物から感染する。 |
細菌感染 (食中毒) |
原因菌によって様々。重症化しやすく、血便を伴う場合がある。1 週間程度続くこともある。加熱不十分な肉(特に鶏肉)、卵、生の牛肉などから感染する。 |
📅慢性下痢症
原因 | 症状の特徴とポイント |
---|---|
過敏性腸症候群 (IBS) |
腹痛を伴う下痢(下痢型 IBS)。検査で異常なし。ストレスや食事で悪化。慢性下痢の最も多い原因の一つ。 |
食事・吸収障害 | 特定の食品(小麦、乳製品、玉ねぎなど)に含まれる吸収されにくい成分が原因。下痢、腹部膨満、栄養吸収不良を伴う。 |
炎症性腸疾患 | 潰瘍性大腸炎、クローン病など。血便、腹痛、体重減少、発熱を伴う慢性的な腸の炎症。 |
大腸がん | 50 歳以上で血便、便潜血陽性、便が細くなるなどの症状がある場合、除外が必要。 |
慢性膵炎 | 膵臓の機能低下により脂肪分解が弱まり、白っぽく脂っこい便(脂肪便)が出る。 |
甲状腺機能亢進症 | 甲状腺ホルモン過剰により腸の動きが速くなり、下痢や動悸を伴う。 |
慢性的な感染症 | クロストリディオイデス・ディフィシルや寄生虫などによる感染の長期化。 |
虚血性腸炎 | 腸への血流が悪くなり起こる。腹痛、血便を伴うことが多い。高齢者に多く見られる。 |
薬剤性 | 普段の服用薬の副作用による下痢。 |
下痢症の予防法
🦠 感染性下痢症の予防
下痢症は日常生活において頻繁に遭遇する症状であり、適切な予防策を講じることで感染リスクを大幅に低減できます。特に感染性下痢症は、衛生管理と食品の取り扱いに注意することが重要です。
🧼 手洗いの重要性
石鹸と流水を使った適切な手洗いは、下痢症の予防において最も効果的な手段です。特に以下のタイミングでの手洗いを徹底しましょう。
- ✅ 食事の前後
- ✅ トイレ使用後
- ✅ 調理前および調理中(特に生肉を扱った後)
- ✅ おむつ交換後
- ✅ 外出から帰宅後
💡 正しい手洗いの方法
石鹸を使い、手のひら・手の甲・指の間・爪の間・手首まで、最低 20 秒間かけて丁寧に洗いましょう。流水でしっかりすすぎ、清潔なタオルで拭き取ることが重要です。
🍳 食品媒介疾患の予防
食品の取り扱いと調理方法に注意することで、食中毒による下痢症を防ぐことができます。
調理時の注意点
- ✅ 生肉・生卵と調理済食品の交差汚染を防ぐ(まな板・包丁を使い分ける)
- ✅ 食品を適切な中心温度まで十分に加熱調理する(肉類は中心温度 75℃ 以上で 1 分以上)
- ✅ 調理後の食品は速やかに冷蔵保存する(2 時間以内、夏場は 1 時間以内)
- ✅ 冷蔵庫内の温度管理を徹底する(10℃ 以下)
✈️ 旅行者下痢症の予防
衛生状態が十分でない地域への旅行時には、特に飲食物に注意が必要です。安全な飲食物の選択が感染予防の鍵となります。
推奨される飲食物(Boil it, peel it, cook it, or forget it.)
- ✅ 密閉されたボトル入りの飲料水
- ✅ 煮沸または消毒された水
- ✅ 熱々の状態で提供される調理済食品
- ✅ 自身で皮をむいた新鮮な果物や野菜
避けるべき飲食物
- ⚠️ 水道水や氷
- ⚠️ 生野菜やカットフルーツ
- ⚠️ 路上の屋台で売られている食品
- ⚠️ 殺菌処理されていない乳製品
- ⚠️ 生の魚介類や肉類
下痢症状でおこまりのかたへ
下痢はありふれた症状ですが、その持続期間や随伴症状によっては、専門的な診断と治療が必須の重篤な疾患が隠れている可能性があります。
特に、血便、高熱、脱水症状、または下痢が4週間以上続く慢性下痢症の場合は、自己判断せず、速やかに古畑病院の消化器内科にご相談ください。当院では、早期に適切な原因を特定し、患者様の健康な日常生活を取り戻すためのサポートをいたします。
✍️ この記事を書いた人

(ふるはた つかさ)