大腸憩室炎について

大腸憩室・憩室炎とは?

 大腸の壁の弱い部分が、圧力などによって外側にぽこっと飛び出し、小さなくぼみ(ポケット)のようになったものを「憩室(けいしつ)」と呼びます。これは日本人の約25~30%に見られ、多くはCT検査や大腸内視鏡検査の際に偶然発見されます。憩室があるだけでは特に症状はなく、この状態を「大腸憩室症」と言います。この憩室に炎症が起こり、腹痛や発熱などの症状が出た状態が「憩室炎」です。

憩室の内視鏡画像

憩室炎の症状

 憩室炎の最も代表的な症状は、持続的な腹痛です。軽く触るだけで痛い、歩くとお腹に響いて痛いといった場合は、炎症が強い(腹膜炎)可能性があり、重症化している可能性があります。

その他、以下のような症状を伴うこともあります。

  • 発熱
  • 吐き気、嘔吐
  • 便通の変化:約半数の方に便秘が、2〜3割の方に下痢が見られます。
  • 排尿の異常:炎症が隣接する膀胱に影響を及ぼし、頻尿、残尿感、排尿時の痛みといった症状が出ることがあります(約10〜15%)。

 症状が軽い場合は数日で自然に治まることもありますが、痛みが強い場合や高熱がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。

憩室炎の原因とリスク

憩室炎が起こる仕組み

  • 腸へのダメージ:硬い便や腸内の圧力によって憩室の壁が傷つき、小さな穴(微小穿孔)が開くことで炎症が始まると考えられています。
  • 腸内環境の変化と慢性的な炎症:腸内にすむ細菌のバランス(腸内フローラ)が乱れたり、体質的に炎症が起きやすい状態だったりすることも、発症に大きく関わっているとされています。

憩室炎のリスクを高める要因

  • 食事:赤身肉の多い欧米型の食生活は、リスクを高めることが知られています。一方で、野菜や果物、全粒穀物などを多く摂る、食物繊維の豊富な食事はリスクを下げます。
  • 肥満:特に内臓脂肪が多いと、憩室炎やその合併症のリスクが著しく高まります。最も重要な危険因子の一つです。
  • 運動不足:ウォーキングなど、活発な運動習慣はリスクを下げます。
  • 喫煙:憩室炎のリスクを高め、特に腸に穴が開く「穿孔性憩室炎」のリスクを上げます。
  • 痛み止め(NSAIDs、アスピリンなど):これらの薬を日常的に使用していると、リスクが高まることがあります。

検査と診断

血液検査

体内でどのくらいの炎症が起きているかを、白血球やCRPといった数値で確認します。

画像検査

憩室炎の診断を確定し、重症度を判断するために画像検査は非常に重要です。

  • CTスキャン:憩室炎の診断で最も有用な検査です。お腹の断面を撮影することで、大腸の壁が厚くなっている様子や、炎症が周囲に広がっている状態を正確に捉えることができます。また、膿のたまり(膿瘍)や腸に穴が開く(穿孔)といった危険な合併症が起きていないかも確認できます。
  • 超音波(エコー)検査:放射線の被ばくがなく、手軽に行える検査です。CTと同様に炎症の様子を確認できますが、検査を行う人の技術によって診断の精度が左右されることがあります。
  • MRI検査:放射線を使わずに、より詳しく体の中を見ることができる検査です。CTと同様に有用ですが、緊急時にはCTの方が迅速に行えることが多いです。

似た症状を持つ病気(鑑別診断)

憩室炎と似た腹痛を起こす病気はいくつかあり、それらと見分けることが重要です。

  • 急性虫垂炎:いわゆる「盲腸」で、主に右下腹部が痛みます。CT検査で区別できます。
  • 感染性腸炎や虚血性大腸炎:下痢や血便が主な症状となることが多いです。
  • 婦人科の病気:女性の場合、卵巣や卵管の炎症なども似た症状を起こすことがあります。
  • 尿路結石:突然の激しい痛みとして現れることがあります。

憩室炎の治療法

 憩室炎の治療は、症状の重症度や合併症の有無、患者さんご自身の健康状態によって決まります。

軽症の場合(外来での治療)

合併症がなく、症状が比較的軽い場合は、入院せずにご自宅で治療します。

  • 食事療法:まずはお腹を休ませるために、水分やゼリーのみとし、症状の改善に合わせておかゆなどの消化の良い食事へ、そして徐々に普段の食事へと戻していきます。
  • 痛みの管理:経口の鎮痛薬で痛みを和らげます。
  • 抗生物質:細菌が炎症を引き起こすため、抗生剤を投与する必要があります。

入院が必要な場合

以下のような場合は、入院での治療が必要となります。

  • 高熱や強い腹痛がある
  • 膿のたまり(膿瘍)や腸に穴が開く(穿孔)などの合併症がある
  • 食事が全く摂れない
  • 高齢の方や、重い持病(心臓病、糖尿病、肝臓病など)がある
  • ステロイド薬や免疫抑制剤を使用している
  • 外来での治療で改善が見られない

 入院中は、絶食にして腸を完全に休ませ、水分や栄養、抗生物質を点滴で投与します。

合併症に対する治療

  • 膿瘍(膿のたまり):膿が小さい場合は抗生物質の点滴で治療しますが、大きい場合は、体の外から皮膚を通して細い管を入れ、膿を排出する処置(経皮的ドレナージ)が必要になることがあります。
  • 穿孔(腸に穴が開く):お腹全体に炎症が広がっている(汎発性腹膜炎)場合は、命に関わるため緊急手術が必要です。ごく小さな穴で炎症が限られている場合は、点滴治療で改善することもあります。
  • 瘻孔(ろうこう):炎症が膀胱や膣などの隣接する臓器に及び、異常な通路ができてしまう状態です。多くの場合、手術が必要となります。

手術を検討する場合

緊急手術のほか、以下のような場合に手術(待機的手術)が検討されます。

  • 憩室炎を何度も繰り返す
  • 薬の治療では症状がすっきり治まらない(くすぶり型憩室炎)

 手術では、炎症を起こしている腸の部分を切除し、きれいな腸同士をつなぎ合わせます。近年では、お腹の傷が小さい腹腔鏡手術やロボット支援手術が選択されることが多くなっています。

治療後のフォローアップと再発予防

大腸カメラ(内視鏡)について

 炎症が強い急性期には、腸に穴が開くリスクがあるため、症状が改善してから6〜8週間後を目安に、大腸がんなどの他の病気がないかを確認するために検査を行います。より詳しい検査内容については、▶大腸カメラ(大腸内視鏡検査)のページでもご確認いただけます。

大腸カメラ(内視鏡)のご予約方法

 当院では、まず医師との診察でご相談いただき、検査の必要性を判断した上でご予約を承っております。安全な検査のため、お薬のお渡しなどもございますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご都合の良い方法で、事前診察のご予約をお願いいたします。

  • WEB予約:24時間受付(検査日は別日となります)
  • お電話でのご予約: TEL:03-3424-0705 受付時間: 月~土 8:30~17:30 (日・祝日を除く)

再発を予防するために

一度憩室炎が治っても、憩室そのものがなくなるわけではないため、再発する可能性があります。再発予防には、日々の生活習慣の見直しがとても大切です。

  • 食物繊維を豊富に摂る:野菜、果物、海藻、きのこ類を積極的に食事に取り入れ、便通を良くしましょう。
  • 水分を十分に摂る:便を柔らかくし、排出しやすくします。
  • 適度な運動:ウォーキングなど、腸の動きを活発にする運動を習慣にしましょう。
  • 生活習慣の改善:禁煙や、肥満であれば減量を心がけましょう。

 憩室炎は、早期に適切な診断と治療を行えば、きちんと治る病気です。気になる腹痛が続く場合は、自己判断せず、ぜひ一度、専門の医療機関にご相談ください。

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