専門医が解説! 大腸がんについて
「自分はまだ若いから大丈夫」「症状がないから関係ない」 本当にそうでしょうか?
大腸がんは、日本で最も罹患数の多いがんの一つでありながら、早期に発見すれば予防や根治が可能な病気です。このページは、あなたとあなたの大切な家族の未来を守るために、知っておくべき大腸がんの真実と、最も有効な予防法について、専門医が分かりやすくお伝えします。
大腸癌についてyoutue shortで学ぶ
大腸癌についてyoutueで詳しく学ぶ
大腸がんとは?
大腸がんは、大腸(結腸と直腸)の粘膜に発生するがんです。多くは「腺腫(せんしゅ)」という良性のポリープが、時間をかけてがん化することで発生すると考えられています。
- 誰にでも起こりうる病気です
大腸がんは、がんの中でも罹患数が多く、特に65歳以上の高齢の方に多く見られます。食生活の欧米化など、生活習慣の変化も関係していると考えられています。 - 症状がないうちが勝負です
小さなポリープや早期のがんの段階では、自覚症状はほとんどありません。症状が出てからでは、がんは進行している可能性があります。だからこそ、症状がないうちの検査が何よりも重要なのです。
大腸がんの原因は?
大腸がんができる原因は、一つだけではありません。「遺伝的な要因」と、食生活などの「環境的な要因」が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
遺伝的な要因
家族に大腸がんの人がいる(家族歴)
ご両親やお子さん、ご兄弟に大腸がんやポリープと診断された方がいる場合、ご自身も大腸がんになりやすい傾向があります。
食生活と生活習慣
私たちの毎日の生活も、大腸がんのリスクに関係しています。
- 食生活 :赤身肉(牛肉、豚肉など)や加工肉(ハム、ソーセージなど)の摂りすぎ
- 肥満: 特に内臓脂肪の多い肥満
- 運動動不足: 座っている時間が長い生活
- 喫煙:喫煙は、がんの前段階であるポリープの発生、そして大腸がん自体の発症リスクを高めることが確立されています。
- 飲酒:習慣的に多くのアルコールを摂取することは、大腸がんの主要なリスク因子の一つです。リスクを減らすためには、飲酒量を最小限に抑えることが推奨されます。
その他の病気との関連
- 潰瘍性大腸炎やクローン病などの「炎症性腸疾患」
- 糖尿病
ご自身の状況を知り、リスクを減らす生活を心がけると共に、後述する検診を受けることが、がんの予防と早期発見につながります。
大腸がんから身を守る最善の方法、それが大腸カメラです
腸がんから命を守るために最も重要なことは、「検診による早期発見」です。その中でも大腸内視鏡検査(大腸カメラ)は、がんの予防から診断、治療後の経過観察まで、あらゆる段階で中心的な役割を果たす、最も重要な検査です。
なぜ大腸内視鏡検査が「重要」なのか
- がんを「予防」できる唯一の検査です
大腸がんの多くは、大腸腺腫(良性ポリープ)から発生します。大腸内視鏡の最大の利点は、腺腫のうちに発見し、がんになる前にその場で切除できる点にあります。がんの芽を摘み取ることができる、唯一の予防的な検査と言えます。 - 最も確実な「診断」方法です
症状がある場合や、便潜血検査で陽性となった場合に、がんやポリープを直接目で見て確認し、組織の一部を採取(生検)して確定診断を下すことができる最も確実な方法です。 - 治療後の「見守り」の要です:
治療後も、再発や新たなポリープの発生がないかを定期的に確認するために不可欠です。
検診の進め方:あなたに最適なステップ
- まずは検診の第一歩を
症状がなくても、40歳を過ぎたら定期的に大腸がん検診を受けることが推奨されています。多くの場合、入り口となるのは便潜血検査です。これは便に混じった目に見えない血液を調べる簡単な検査です。 - 便潜血検査で「陽性」と出たら、迷わず次のステップへ
便潜血が「陽性=がん」ではありません。しかし、ポリープや炎症など、何らかの異常があるサインです。必ず精密検査として大腸内視鏡検査を受けてください。 - 大腸内視鏡検査を受けるべき方:

がんの進行度(ステージ)について
がんの進行度を「ステージ」という言葉で表します。これは、がんがどのくらい広がっているかを示すもので、治療法を決定する重要な指標です。
- ステージⅠ: がんが、大腸の壁の内に留まっている状態。
- ステージⅡ: がんが大腸の壁を越えていますが、リンパ節への転移はない状態。
- ステージⅢ: がんが、近くにあるリンパ節に転移している状態。
- ステージⅣ: がんが、肝臓や肺など、大腸から離れた臓器(遠隔臓器)に転移している状態。
言うまでもなく、ステージが早いほど体への負担が少ない治療で根治を目指せます。
治療の基本方針
大腸がんの治療は、がんの進行度や患者様お一人おひとりの体の状態に合わせて、最適な方法を組み合わせて行います。
内視鏡治療
大腸カメラの大きなメリットは、ただ観察するだけでなく、がんになる前のポリープやごく早期のがんであれば切除できる点です。これにより、将来のがんを予防し、お腹を切る手術を回避することができます。
- 10mm以下のポリープ: 検査中にその場で安全に切除することが可能です。
- 10mmを超えるポリープ: より安全・確実な切除のため、入院での治療をお勧めしています。
手術治療
内視鏡治療が難しい場合や、がんが進行している場合には、手術が基本的な治療法となります。最近では、お腹に小さな穴を数カ所開けて行う「腹腔鏡(ふくくうきょう)手術」が主流で、体への負担は少なくなっています。
薬物療法(抗がん剤治療・免疫療法など)
薬物療法は、がんの進行度や治療の目的に応じて、様々なタイミングで行われます。手術でがんを取りきった後の再発を防ぐ目的(術後補助化学療法)だけでなく、手術前にがんを小さくしたり、手術が難しい進行がんの治療としても行われます。
放射線治療
主に直腸がんや、再発のリスクが特に高いと判断された場合に、選択肢の一つとして検討されることがあります。
大腸がんの予後
ステージと予後(今後の見通し)
がんの治療成績を示す指標として「5年相対生存率」がよく用いられます。これは、がんと診断された場合に、治療でどのくらい生命を救えるかを示す数値で、大腸がんの予後は発見されたときのステージに大きく左右されます。
- ステージⅠで発見された場合の5年生存率は90%以上と非常に良好で、内視鏡治療や手術で根治できる可能性が非常に高いです。
- ステージⅡ、ステージⅢでも、適切な手術と必要に応じた薬物療法を行うことで、根治を目指すことは十分に可能です。
- ステージⅣになると治療は複雑になりますが、近年の薬物療法の進歩により、以前よりも長くがんと付き合いながら生活することも可能になってきています。

このことからも、いかに症状のない早期の段階で発見することが重要かがお分かりいただけると思います。
最後に:未来の自分のために、今、行動を
大腸がんは、早期発見さえすれば、決して怖い病気ではありません。しかし、発見が遅れれば、あなた自身の、そしてご家族の人生を大きく変えてしまう可能性も秘めています。 「症状がないから大丈夫」「いつか受けよう」と思っているうちに、手遅れになってしまうケースを、私たちは専門医として数多く見てきました。未来の自分や家族のためにできる最も確実なことは、勇気を出して、早めに大腸カメラを受けることです。
あなたのその一歩が、10年後、20年後の安心につながります。 まずは、お気軽に当院までご相談ください。
参考文献
- Siegel RL, Kratzer TB, Giaquinto AN, et al. Cancer statistics, 2025. CA Cancer J Clin 2025; 75:10.
- Hamilton W, Round A, Sharp D, Peters TJ. Clinical features of colorectal cancer before diagnosis: a population-based case-control study. Br J Cancer 2005; 93:399.
- Moreno CC, Mittal PK, Sullivan PS, et al. Colorectal Cancer Initial Diagnosis: Screening Colonoscopy, Diagnostic Colonoscopy, or Emergent Surgery, and Tumor Stage and Size at Initial Presentation. Clin Colorectal Cancer 2016; 15:67.
- Chan AT, Giovannucci EL. Primary prevention of colorectal cancer. Gastroenterology 2010; 138:2029.
- Bouvard V, Loomis D, Guyton KZ, et al. Carcinogenicity of consumption of red and processed meat. Lancet Oncol 2015; 16:1599.
- Chan DS, Lau R, Aune D, et al. Red and processed meat and colorectal cancer incidence: meta-analysis of prospective studies. PLoS One 2011; 6:e20456.
- Rex DK, Boland CR, Dominitz JA, et al. Colorectal Cancer Screening: Recommendations for Physicians and Patients from the U.S. Multi-Society Task Force on Colorectal Cancer. Am J Gastroenterol 2017; 112:1016.