専門医が解説!お腹の張りについて

「お腹が張って苦しい」「ガスがたまっている感じがする」 このような「お腹の張り」は、腹部膨満感と呼ばれる症状です。多くの方が経験する身近な症状ですが、中には注意が必要なケースもあります。
 このページでは、消化器専門医が腹部膨満感のメカニズムから原因、ご自身でできる対策、そして専門的な治療法まで、分かりやすく解説します。

「腹部膨満感」と「腹部膨隆」の違い

  • 腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん) 「お腹が張っている」「圧迫感がある」といった、ご本人が感じる感覚的な症状です。
  • 腹部膨隆(ふくぶぼうりゅう) 実際に腹囲が大きくなるなど、客観的に測定できる身体的な変化です。

お腹のガスの正体は?

お腹の張りの原因として「ガス」を想像する方は多いでしょう。実際の腸内ガスについて解説します。

  • 腸内ガスの量
      実は、お腹の張りを訴える人とそうでない人で、腸内にあるガスの総量に大きな差はないことが研究で分かっています。このことから、膨満感はガスの「量」そのものよりも、ガスに対する腸の過敏性(知覚過敏)や、ガスの流れが滞ることが原因で起こると考えられています。
  • ガスの主な成分
      腸内ガスの99%以上は、窒素・酸素・二酸化炭素・水素・メタンといった、臭いのない気体で構成されています。

なぜお腹は張るの?考えられる主な原因

 腹部膨満感は、一つの原因だけでなく、複数の要因が複雑に絡み合って起こることがほとんどです。以下のような病気が腹部膨満感の原因となることがあるため、問題がないことを確認するため、胃カメラ、大腸カメラ、レントゲン、CT検査で問題ないことを確認することが必要です。

  • 便秘、逆流性食道炎
  • 小腸内細菌過増殖症(SIBO)、乳糖不耐症、セリアック病
  • 腸閉塞、糖尿病、強皮症、甲状腺機能低下症
  • 胃がん、大腸がんなどの悪性腫瘍
  • 腹水、妊娠、肥満
  • 特定の薬剤の副作用

空気の飲み込みすぎ(空気嚥下症)

無意識のうちに空気をたくさん飲み込んでしまうことが、胃にガスがたまる主な原因です。

  • 原因となる習慣:早食い、ガムを噛む、喫煙、炭酸飲料の摂取、合わない入れ歯の使用、不安やストレスなど。
  • 排出経路:飲み込んだ空気のほとんどは「げっぷ」として排出されます。

腸内でのガス産生

特定の食べ物が腸内細菌によって分解(発酵)される過程で、ガスが産生されます。

  • 産生されるガス:二酸化炭素、水素、メタンなど。
  • 原因となる栄養素:小腸で消化・吸収されにくい炭水化物などが大腸に届くと、腸内細菌のエサとなりガスを発生させます。

食事の内容

特定の食品は、腸内でガスを発生させやすい傾向があります。

  • ガスを産生しやすい食品
      豆類、キャベツ、玉ねぎ、ブロッコリー、小麦、イモ類、ニンジン、果物(レーズン、バナナ、プルーンなど)
  • FODMAP(フォドマップ)
    小腸で吸収されにくい発酵性の糖類の総称です。これらを多く含む食品を摂ると、腸内で過剰な発酵が起こり、ガスの原因になることがあります。過敏性腸症候群(IBS)の方などでは、これらを控える「低FODMAP食」が有効な場合があります。
    • 主なFODMAP食品:乳製品、果物、はちみつ、小麦、玉ねぎ、豆類、人工甘味料など。

腸の動き(ぜん動運動)の異常

 腸の動きが鈍くなると、発生したガスをうまく排出できず、お腹にたまりやすくなります。過敏性腸症候群(IBS)や便秘も、膨満感の大きな原因の一つです。

腸内環境の乱れ(Dysbiosis)

 腸内にすむ細菌のバランスが崩れることも、お腹の張りを引き起こす一因と考えられています。

【要注意】こんな症状の時は、病院へ!

 ほとんどのお腹の張りは深刻な病気ではありませんが、以下のような症状がみられる場合は、自己判断せずに必ず医療機関を受診してください。

 😫がまんができない腹痛や持続する腹痛
 📉原因不明の体重減少
 🩸血便(便に血が混じる、便が黒い)
 🤢発熱や嘔吐
 💧脂肪便(油っぽく、水に浮くような便)
 🧱便秘が続く

症状に応じた専門的な検査

 症状に応じて原因を特定するため、問診と診察を基本に、必要に応じて以下のような検査を組み合わせて行います。

  • 採血:貧血や炎症の有無、甲状腺機能、栄養障害などを調べます。
  • 腹部レントゲン検査:腸内ガスの分布や便秘、腸閉塞の有無を確認します。
  • 腹部CT検査:お腹の中の臓器を詳細に調べ、腫瘍や腹水などを見つけます。
  • 胃カメラ:逆流性食道炎、胃や十二指腸に潰瘍やがんがないか確認します。
  • 大腸カメラ:大腸にポリープやがん、炎症がないか確認します。

お腹の張りの対策と治療

 原因に応じた対策や治療を行うことが重要です。病気が発見された場合は、その治療を最優先でおこなうことが最も重要です。
 豆類やいも類など、ガスを発生させやすい特定の食品が原因となっていることがあります。ご自身の体質に合わない食品を見つけ、摂取量を調整することが第一歩です。
 日常生活では、ウォーキングのような軽い運動を習慣にすると、腸のぜん動運動が活発になり、ガスの排出がスムーズになります。また、精神的なストレスが腸の働きに影響することもありますので、ご自身に合った方法でリラックスする時間を作り、ストレスを上手に管理することも、症状の改善につながります。

食事療法について

 お腹の張りを和らげるためには、日々の生活習慣の見直しが重要です。まず、食事内容に目を向けましょう。また、食事の際は、早食いを避け、ゆっくりよく噛むことを心がけてください。これにより、余計な空気の飲み込みを防ぎ、消化を助ける効果が期待できます。

ガスを産生しやすい食品の調整

代表的な食品例
  • 豆類(大豆、あずきなど)
  • いも類(さつまいも、じゃがいも)
  • アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー)
  • 玉ねぎ
  • ごぼう
  • きのこ類
  • 乳製品など。

調整の進め方

 一度に全てを止めるのではなく、「今日は豆類を控えてみよう」「きのこを減らしてみよう」というように、一つずつ試すのが効果的です。食事日記をつけて、何を食べた後に症状が出やすいかを記録すると、ご自身の体質に合わない食品が見つかりやすくなります。

低FODMAP(フォドマップ)食について

 上記の食品調整で改善しない場合、過敏性腸症候群(IBS)の食事療法として世界的に推奨されている「低FODMAP食」を試す選択肢があります。これは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい特定の糖質群(FODMAP)を一時的に制限する方法です。

  • FODMAPを多く含む食品の具体例
    • オリゴ糖(フルクタン、ガラクトオリゴ糖):小麦、玉ねぎ、にんにく、ごぼう、豆類など
    • 二糖類(ラクトース):牛乳、ヨーグルト、チーズなど
    • 単糖類(フルクトース):果物(りんご、梨)、はちみつ、果糖ぶどう糖液糖など
    • ポリオール:マッシュルーム、カリフラワー、シュガーレス製品の甘味料(キシリトール、ソルビトール)など

栄養士にも相談しよう
 低FODMAP食は、まずこれらの食品を一定期間厳格に除去し、その後一つずつ試しながら食べられるものを見つけていく、という専門的な手順を踏みます。自己流で行うと、不必要な食事制限で栄養が偏ったり、原因食品の特定がうまくいかなかったりする可能性があります。安全かつ効果的に食事療法を行うため、専門知識を持つ管理栄養士への相談を強くお勧めします。栄養相談は自費診療となる場合がありますが、栄養バランスを保ちながら計画的に食事を進める上で、非常に有益です。

運動療法について

 身体を動かすことや呼吸を意識することは、お腹の張りの改善に有効です。

  • 軽い運動と正しい姿勢
    ウォーキングなどの軽い運動は、腸の動きを助け、ガスの排出を促します。また、猫背を避け、背筋を伸ばした正しい姿勢を心がけることも、腹部の圧迫を減らし、症状の緩和につながります。
  • 腹式呼吸
     お腹を意識した深い呼吸法である「腹式呼吸」は、特にげっぷや腹部膨満感に対して有効なセルフケアです。
    • 期待できる効果: 食後の胃の圧力を下げてげっぷを抑える効果や、お腹の筋肉と横隔膜の連携を整え、ぽっこりとしたお腹の張りを和らげる効果が期待できます。
    • 呼吸法のやり方:
      1. 楽な姿勢で、片方の手をお腹に、もう片方の手を胸の上に置きます。
      2. 鼻からゆっくりと息を吸い込みます。この時、胸の上の手はなるべく動かさず、お腹の上の手だけが持ち上がるように、お腹を膨らませることを意識します。
      3. 口からゆっくりと息を吐き出し、お腹がへこんでいくのを感じましょう。

薬物治療

 便秘や原因となっている病気の治療を優先していただきます。
 食事や生活習慣の見直しで症状が改善しない場合、患者さん一人ひとりの症状に合わせて、以下のようなお薬を処方します。

  • 腸の動きを調整する薬(消化管運動機能改善薬)
      腸の動きが鈍いと、ガスや便がスムーズに排出されず溜まりやすくなります。このタイプのお薬は、腸のぜん動運動を活発にし、内容物の通過を助けることで、お腹の張りを和らげます。
  • 整腸剤(プロバイオティクスなど)
     腸内細菌のバランスが乱れ、ガスを産生する悪玉菌が増えることもお腹の張りの一因です。善玉菌を補う整腸剤で腸内環境を整え、ガスの異常な発生を抑える効果が期待できます。
  • 腸の知覚過敏を抑える薬
    検査で異常はないのに、通常では気にならない程度の少量のガスでも強い張りや不快感を感じてしまう方がいます。これは「知覚過敏」という、腸の神経が過敏になっている状態です。このような場合には、腸の感覚を正常に近づけるお薬を少量から使用することがあります。
  • 胃酸を抑える薬
     逆流性食道炎など、胃酸の分泌がげっぷやお腹の張りの一因となっている場合に処方されることがあります。胃の不快感を和らげることで、症状の改善につながる場合があります。

最後に

 お腹の張りは多くの人が経験する症状ですが、生活の質(QOL)を大きく下げるつらい症状でもあります。そして、時には重大な病気のサインである可能性も否定できません。「たかがお腹の張り」と我慢せず、症状が続く場合はお気軽に専門の医師にご相談ください。一緒に原因を探り、最適な解決策を見つけていきましょう。

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