【専門医が解説】急性胃腸炎の症状・原因・治し方|病院へ行くべき目安は?
急性胃腸炎とはどんな病気ですか?

一般的に「おなかの風邪」や「感染性胃腸炎」と呼ばれるもので、大部分がウイルスが胃や腸に感染して炎症を起こす病気です。主な症状は、突然の下痢、吐き気、嘔吐、腹痛で、発熱を伴うこともあります。冬場に流行することが多いですが、年間を通して誰でもかかる可能性があります。特に、学校や介護施設、クルーズ船など、人が集まる場所で集団的に発生することがあります。2日以上下痢が続く場合は、食中毒の可能性もあり注意が必要な病気です。
原因は?
原因のほとんどはウイルスです。代表的な原因ウイルスには「ノロウイルス」や「ロタウイルス」などがあります。ただし、2日以上症状が続く場合、細菌など他の原因のことがあるため、注意が必要です。これらのウイルスは、次のような経路で体の中に入り込みます。
- ウイルスに汚染された食べ物や水を口にする(食中毒)
- 感染した人の便や吐いた物に含まれるウイルスが、手を介して口に入る
- 感染した人が調理した食事を食べる
ウイルスが体に入ってから症状が出るまでの時間(潜伏期間)は、ウイルスの種類によって異なりますが、おおよそ1日から2日程度です。
どのような症状が出ますか?
主な症状は、突然の吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。これらの症状は、通常1日~3日で自然によくなりますが、長い場合でも1週間程度で治まります。また、38度台の熱が出ることもあれば、出ない場合もあります。
ほとんどの場合はご自宅での対処で自然に回復しますが、以下のような症状が見られる場合は、脱水症状や他の病気の可能性も考えられるため、医療機関を受診してください。
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🌡️ 38.5℃以上の高い熱が続いている
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📅 症状が2日以上続いている
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💧 水分を全く受け付けず、のどがカラカラ
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😰 ぐったりする
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🤕 我慢できない腹痛がある
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🩸 血便を認める
以下に該当する方は、早めの受診をお勧めします。
検査について
血液検査
採血で体内の炎症反応の強さや脱水を確認し、重症度を判断します。
腹部超音波検査、CT検査
強い腹痛がある場合、軽症の腸炎と判断してしまうと、虫垂炎(盲腸)や胆のう炎、腸閉塞など、緊急の治療が必要な病気を見逃してしまう危険があるため、腹部エコーやCTといった画像検査を行います。 また、ウイルス性か細菌性かの判断の一助となります。
治療薬について
大分部のかたは、症状を和らげながら自然に回復するのを待つことが治療の基本になります。
水分補給が最も大切です
下痢や嘔吐は、体から水分と塩分(電解質)を失わせ、脱水症状を引き起こす可能性があります。脱水を防ぐために、1.5L前後を目標にこまめな水分補給を心がけてください。
- 経口補水液(OS-1など。薬局で購入できます)、スポーツドリンク、麦茶、白湯、スープなど
- 避けたほうがよい飲み物:オレンジジュースなどの果汁飲料や炭酸飲料は、糖分が多すぎて下痢を悪化させることがあります。
食事は無理をせずに
食欲がない時は無理に食べる必要はありません。水分補給を優先してください。 食べられそうであれば、消化しやすいものから少しずつ試してみましょう。
- おすすめの食べ物:おかゆ、うどん、スープ、バナナ、塩味のクラッカー、茹でたジャガイモや野菜など
- 特定の食事にこだわる必要はありません。食べられるものを少しずつ摂ることが大切です。
下痢止め
自己判断で市販の下痢止めを使うのは注意が必要です。ウイルスなどを体外に排出するのを妨げ、かえって回復を遅らせることがあるためです。 ただし、下痢がひどく脱水が心配される状況で、熱や血便がない場合に限り、医師が処方することがあります。必ず医師の指示に従って使用してください。
吐き気止め
嘔吐がひどく、水分補給が難しい場合は、吐き気止めが処方されることがあります。
抗生物質(抗菌薬)
いわゆる「おなかの風邪」の原因はほとんどがウイルスなので、細菌を殺すための抗生物質は効果がなく、通常は使用しません。副作用のリスクのほうが大きくなる可能性があります。 ただし、高熱が続く、便に血が混じる、下痢が2日以上続くなど、細菌感染が強く疑われる重い症状の場合には、医師の判断で処方されることがあります。
整腸剤(プロバイオティクス)など
急性胃腸炎に対する整腸剤(プロバイオティクス)や亜鉛サプリメントの有効性は、現在のところはっきりしていません。
どうすれば予防できますか?
予防のために最も効果的なのは「手洗い」です。
- トイレの後、調理や食事の前には、石けんと流水で20秒以上かけて丁寧に手を洗いましょう。
- 症状がある家族の吐いた物などを処理する際は、使い捨ての手袋やマスクを着用し、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)で消毒するなど、適切に行いましょう。
- カキなどの二枚貝は、中心部まで十分に加熱してから食べましょう。
急性胃腸炎のまとめ
急性胃腸炎は、主にノロウイルスなどのウイルス感染が原因です。主な症状は突然の下痢、嘔吐、腹痛、発熱で、通常1〜3日で回復します。
治療の基本は十分な水分補給と安静です。自己判断での下痢止めの使用は回復を遅らせる可能性があるため注意しましょう。
水分が摂れないほどの強い脱水、我慢できない腹痛、高熱や血便、下痢が2日以上、長引くなど辛いとき、特に高齢者や持病のある方、妊婦は、我慢せずにはやめに医療機関を受診してください。
急性胃腸炎は、主にウイルス(ノロウイルス等)が原因で起こる胃腸の感染症で、「おなかの風邪」とも呼ばれます。主な症状は突然の下痢、嘔吐、腹痛、発熱などで、通常1〜3日で自然に回復します。ただし、下痢が2日以上続く場合は、細菌性の食中毒なども疑われるため注意が必要です。
受診の目安
水分が全く摂れない、強い脱水症状(口の渇き、尿量の極端な減少)、高熱や血便、我慢できないほどの腹痛、症状が2日以上続く場合は医療機関の受診が推奨されます。特に高齢者、持病のある方、妊婦は早めに相談することが大切です。
検査と治療
- 検査: 診断は主に症状から判断しますが、重症度を調べるための血液検査や、他の病気(虫垂炎など)を除外するために腹部エコー・CT検査を行うことがあります。
- 治療: 特効薬はなく、十分な水分補給(1.5L前後が目標)と休息が基本です。食事は消化の良いものを無理なく摂りましょう。自己判断での下痢止めの使用には注意が必要で、ウイルスが原因の場合は抗生物質は効果がありません。
予防法
最も効果的な予防法は、石けんと流水による丁寧な手洗いです。また、食品の十分な加熱も重要です。
参考文献
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- Rao SS, Summers RW, Rao GR, et al. Oral rehydration for viral gastroenteritis in adults: a randomized, controlled trial of 3 solutions. JPEN J Parenter Enteral Nutr 2006; 30:433.
✍️ この記事を書いた人

(ふるはた つかさ)