専門医が解説! 急性の下痢症について
急な腹痛や、何度もトイレに駆け込む下痢の症状は、非常につらく不安なものです。特に、症状が突然始まる「急性下痢症」は、多くの方が経験します。
下痢症についての正しい知識とご家庭での対処法、そして専門的な治療が必要な場合の見分け方を、より詳しく、分かりやすく解説します。
下痢とは? 症状の期間で分類されます
下痢とは、便の水分が異常に多くなり、泥状または水のような便が1日に3回以上出る状態を指します。症状が続く期間によって、以下のように分類されます。
- 急性下痢症: 症状が2週間以内で治まる下痢です。
- 遷延性(せんえんせい)下痢症: 症状が2週間以上、1ヶ月未満続く状態です。
- 慢性下痢症: 症状が1ヶ月以上続く場合を指します。長引く下痢には感染症以外の原因(体質、他の病気など)が隠れている可能性があるため、専門的な検査が必要になります。
急性下痢症の主な原因は「感染症」です
急性下痢症のほとんどは、ウイルスや細菌に感染することで起こります。原因によって、症状の出方や対処法が少し異なります。
ウイルス感染
ウイルスが原因の下痢症は、症状が強く出ることが多いですが、比較的短期間で、2〜3日程度で回復に向かうのが特徴です。
- ノロウイルス: 最も多い原因です。感染から1~2日で、突然の激しい嘔吐や下痢が始まります。冬場に流行し、学校や施設などで集団発生しやすいのが特徴です。
- ロタウイルス、アデノウイルス: 主に乳幼児の下痢の原因となります。
細菌感染(食中毒など)
重症化しやすい下痢は、細菌が原因のことがあります。細菌が原因の場合、症状は原因菌によって様々ですが、ウイルス性に比べて少し長く、1週間程度続くこともあります。
- サルモネラ菌、カンピロバクター菌: 加熱が不十分な肉(特に鶏肉)や卵などが原因となります。
- 腸管出血性大腸菌(O-157など): 生の牛肉や加熱不十分なひき肉などが原因で、血便を伴う激しい下痢が特徴です。
こんな症状は要注意!すぐに医療機関へご相談ください
ほとんどの急性下痢症は数日で改善しますが、以下のような症状が見られる場合は、重い病気のサインかもしれません。我慢せず、速やかに当院にご相談ください。

病院での詳しい検査について
便の検査(検便・便培養)
下痢の原因菌を特定するため、便の検査(便培養)を行うことがあります。ただし、急性下痢症のほとんどはウイルスが原因のため、症状が軽い場合は検査をしても細菌が見つかることは稀です。一方、高熱や血便を伴う、または下痢が長引く場合は、細菌感染の可能性が非常に高くなります。便培養を行うことで、原因菌(サルモネラ、カンピロバクターなど)を80%ほど特定することができるため、治療法や感染拡大の防止に役立ちます。
大腸カメラ
急性下痢症で内視鏡検査を行うことは通常ありません。しかし、下痢が1ヶ月以上続く場合や、体重減少・血便などの気になる症状がある場合は、検査をすすめます。この内視鏡検査では、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)や大腸がんなど、下痢の原因となっている可能性のある病気がないかを直接確認することができます。
大腸カメラをうけるには?
まず医師との診察でご相談いただき、検査の必要性を判断した上でご予約を承っております。安全な検査のため、お薬のお渡しなどもございますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
ご予約方法
ご都合の良い方法で、事前診察のご予約をお願いいたします。
▼ WEB予約:24時間受付(検査日は別日となります)
▼ お電話でのご予約
お電話でも診察のご予約を承っております。
TEL:03-3424-0705 受付時間: 月~土 8:30~17:30 (日・祝日を除く)
より詳しい検査内容については、▶大腸カメラ(大腸内視鏡検査)のページでもご確認いただけます
治療について
💧水分補給
下痢で失われた水分と電解質を補うことが最も重要です。水分と電解質を効率よく吸収できる経口補水液(OS-1など)を薬局などで購入し、摂取することが効率的と考えられています。水分を十分に摂取できない場合は、点滴を行います。
🍎食事
水分を1-2Lほど摂取できれば、食事を1日は無理に食べる必要はありません。食欲が出てきたら、消化がいい腸にやさしいものから始めましょう。
- 消化のよい食事
ゼリー、おかゆ、よく煮込んだうどん、じゃがいも、バナナ、スープ、ゆでた野菜など。 - 避けるべき食事
脂っこいもの(揚げ物、ラーメン)、香辛料の多いもの、冷たいもの、アルコール。また、一時的に乳製品(ヨーグルトを除く)を控えると症状が楽になることがあります。
💊抗生物質
細菌感染が原因の場合は、抗生物質による治療が必要になることがあります。ただし、不要な抗生物質の使用は、薬が効かない耐性菌を増やす原因にもなります。医師が診察の上、必要性を慎重に判断します。
ご家族や周りの方への感染について
原因がウイルスや細菌などの感染症の場合、人にうつる可能性があります。 主な感染経路には、汚染された食べ物や水を口にする、感染者の便や吐しゃ物に触れた手を介して口に入る、などがあります。特にノロウイルスなどは非常に感染力が強いため、ご家族に症状が出た場合は、タオルの共用を避け、こまめな手洗いや消毒を徹底することが大切です。

お仕事や学校への復帰の目安
症状が治まっても、他の人にうつしてしまう可能性があります。周りの方への感染を防ぐため、下痢や嘔吐の症状が完全になくなってから、24時間〜48時間はご自宅で様子を見ましょう。
- 特定の職業の方: 食品を扱うお仕事や、医療・介護施設で患者様に直接ケアを提供するお仕事の方は、復帰前に便の検査(陰性確認)が求められることがあります。必ず職場の規定や地域の保健所の指示に従ってください。
- お子様の場合: 学校や保育園も集団生活の場ですので、それぞれの施設のルールに従って復帰させてください。
下痢にならないために(予防策)
感染性の下痢は、日々の少しの注意で予防できます。
- 基本は手洗い: 食事の前、トイレの後、調理の前後には、石鹸と水で20秒以上かけて丁寧に手を洗いましょう。
- 食品は十分に加熱: 特に肉や魚、卵は中心部まで(75℃で1分以上が目安)しっかりと火を通しましょう。
- 調理器具は清潔に: 生肉や生魚を切ったまな板や包丁で、他の食材を扱わないようにしましょう。使用後はすぐに洗い、熱湯消毒を心がけてください。
下痢はつらい症状ですが、正しく対処すればきちんと治ります。ご自身の症状で不安な点があれば、どうぞお気軽に当院までご相談ください。